今は、『「社会調査」のウソ』という本を読んでいます。
いかに巷に溢れる「社会調査」なる統計調査やアンケート調査があやしいものかがよくわかります。メディア・リテラシーを鍛えるためによさそうです。Amazonでの評価も高いですね。
これで思い出したのが、「日本人の8割が死刑に賛成」という世論調査結果です。(またまた、死刑の話ですみません)
他国で拮抗しつつも反対の方が多いテーマが、ある国で8割以上賛成となると、ちょっと訝しいものを感じないでしょうか。まるで中東諸国や社会主義国での得票率のようです。
洗脳されているか、情報操作されているのではないかと感じてしまいます。
これにはからくりがあります。
おそらく「日本人の8割が死刑に賛成」というのは、内閣府が実施している世論調査の結果(下にリンクを列記)だと思うのですが、死刑に関する調査は、最近では5年に1回ほどの「基本的法制度に関する世論調査」の中で行われています。この調査での死刑の賛否に関するアンケート文言は、次のどちらかを選ばせるようになっています(それ以外という選択肢もある)。
- 「どんな場合でも死刑は廃止すべきである」
- 「場合によっては死刑もやむを得ない」
死刑反対論者でさえ、国家転覆等の場合はやむ得ないと考えている人もいるでしょうから、このアンケートではそういう人はその他か賛成側に回ります。
このような質問文言から、賛成81.4%、反対6.0%(平成16年)という数字が抽出されメディアを踊っているわけです。
この調査は、内閣府で実施されていますが、関係省庁が法務省とされているとおり実際の作成は法務省でしょう。
ちなみに、類似の調査は昭和31年から行われているようですが、その頃からはアンケート文言のニュアンスが変わってきていて興味深いです。
1980年ごろまでは、死刑廃止という意見もあるがそれをどう思うか?というようなアンケートの問いかけ方でした。
たとえば、1980年の調査では、「あなたは,重い罪を犯した人の場合でも,実際にはなるべく死刑にしない方がよいと思いますか,そうは思いませんか」というアンケートがあり、死刑にしない方がよいが25.3%、そうは思わないが41.7%です。
圧倒的に死刑賛成ですが、この数字であれば直観的にまだ民意を反映していると思えます。
ちなみに、1967年も同じ質問がなされていますが、なんと死刑にしない方がよいが41.6%、そうは思わないが40.0%でした。
もちろん、最近は厳罰化の流れにあるので、1980年よりももっと死刑賛成が増えているとは思います。
ただ、どうして民意が厳罰化の流れにあるのかは注意深く考えないといけないでしょう。
犯罪や殺人事件自体は戦後ずっと減ってきているのです。
また、興味深いことに、1956年の最初の調査のときから、「最近凶悪事件が多いと思いますか?」という質問に対して76%もの人がそう思うと答えています。1967年も「凶悪事件は増えているか?」に73.9%もの人がそう思うと答えています。1980年は84.1%、1989年は90.8%とたしかにパーセンテージは上がってきていますが、少なくとも1956年当時から凶悪犯罪が増えているという意識は国民の中にあったと思われます。つまり、いつの時代も「物騒な世の中になったなぁ」とみんな獏と感じているということです。
世界が、中国でさえ死刑執行数を減らしているのに、日本だけが増やしているという現実はどう捉えればよいのでしょうか。
あと、死刑は日本の文化だという話もありますが、ヨーロッパでさえも昔は見せしめ的に死刑執行されていました。ギロチンとか有名ですね。死刑は世界中に存在しました。が、今は多くの国で執行しなくなってきています。多くの国は死刑を文化として持っていましたが、それを捨ててきました。
なので、問題の立て方としては、日本はどうしてその文化を固辞するのかですね。
[Update]
自分も偏りのある表現だったかもしれません。より正確には、どうして死刑廃止国は死刑という文化を捨てたのか、日本はその理由に追随する必要はあるのか、でしょうか。
【死刑に関する世論調査リンク】
昭和31年:死刑問題に関する世論調査
昭和42年:死刑に関する世論調査
昭和50年:犯罪と処罰等に関する世論調査
昭和55年:犯罪と処罰等に関する世論調査
平成元年:犯罪と処罰に関する世論調査
平成6年:基本的法制度に関する世論調査
平成11年:基本的法制度に関する世論調査
平成16年:基本的法制度に関する世論調査
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