2006年12月14日木曜日

Winny裁判では技術一般や著作権法自体を問うことは難しそう

Winny裁判の判決が昨日出ました。ネット上でもさまざまに議論されているようです。小飼弾さんのブログでも半ばヒステリックに反応されているようですね。
404 Title Not Found:極めて不当かつ想定の範囲内の判決

以下、個人的意見として。

いったん裁判は脇においておいて、一連のWinnyの出来事についての推測も交えつつの事実を整理したいと思います。

まず金子氏の意図について、

* 金子氏(a.k.a.47氏)は、ほぼ間違いなく著作権侵害の意図があった、著作権への挑戦でもあった
* ただし、その後、著作権侵害の罪に問われないような準備と工作はした

次に、Winnyの技術について、

* Winnyは、いわば大規模で実際に運用された世界初のデータ・グリッドであり、(実装)技術的にも優れているといえる
* 日本発の影響力のあるソフトウェアとなれた可能性もなくはない
* この技術自体を違法とすると社会的影響は大きい
* Winnyの一番の危険は、放流ファイルが削除できないことである

3つめに、当時のWinnyを取り巻く状況について、

* Winny以外にも著作権違反に使われているP2Pソフトは(多数)ある
* ただし、国内ではWinnyが最盛期には最大ユーザを抱えていたと思われる
* 実際に、Winnyで著作権を犯してファイルを流す人もたくさんいた、それをダウンロードする人もたくさんいた
* Winnyについての特集記事を掲載するなどした雑誌もあった
* Winnyが注目を浴びたのは、Winnyに感染するウィルスにより情報漏えい事件が多発したためである
* そもそもUSなどでは、P2Pファイル交換ソフトに関してその利用者が一斉摘発されることはあっても開発者は訴えられていない
* 日本でも、金子氏が逮捕される前までは、実際にファイル交換した人が(おそらく掲示板に書き込むなど行動が派手だったために)たまに摘発されていた


というような事実を踏まえつつ、今回、Winnyでどうして開発者が罪に問われたかを邪推すると、

* 利用者を一斉摘発しようとするとまずは京都府警の警官に逮捕者が出てしまう(警官のPCのWinnyから情報が流出したことがありました)
* 利用者の摘発では、見せしめ摘発では済まずかなり大量の一斉摘発が必要であり、府警レベルではおさまらないそうとう大掛かりな捜査が必要となる
* Winny記事を掲載した雑誌を幇助として摘発することを考えると、言論の自由など問題が肥大化して裁判が検察に不利になる
* 2chの掲示板での47氏こと金子氏の書き込みにより、著作権違反を知りつつ開発したということを立証できそうと判断された

というような判断があり、結果として一番立件しやすかった開発者の逮捕があったのではないでしょうか。


そうしたことを踏まえて裁判を考えてみると、こうした(個人的推測含む)事実の上に、裁判的お作法を含めて考えると、

* 日本の刑事裁判では99%が有罪になってきている(そのため、無罪にはしづらいという意識が働く)
* 検察は、今後のネット犯罪の取り締まりでも有利に動けるよう、なんとしてでも勝ちたい
* 京都府警はサイバー犯罪に特に注力しているため、負けるわけにはいかない
* 被告は当然自分に不利な発言はしないし、過去の不利な発言も修正しようとする
* 被告側は、今回の事件をソフトウェア開発一般論に展開することで有利な立場に立とうとする
* 裁判官は、事実、個人の心証、社会への影響、この後の判例としての価値、などを鑑みて判決を出す

というそれぞれの立場があり、結果として今回の判決は、技術一般としては中立的価値を認めつつ、金子氏個人の意図とそれに伴う行為(開発の継続)に対して罪を科し、それによって検察側の面目も立てたという、司法としては妥当なものだったのではないでしょうか。それが社会的正義かは別として。


ただし、やはり、著作権侵害よりも著作権幇助の方が罪を問われるといういびつな構造には疑問を感じます。
やはり、京都府警が功をあせって最初の罪の問い方を間違ってしまったのが一番の問題ではないでしょうか?

私が考える妥当なシナリオはこうだったと思います。

1. まず、IPAなり警察なり適切な組織から、Winny開発者に対して違法ファイル放流を軽減するための仕組みを実装するよう指導する
2. 指導に従わなかったときにはじめて逮捕する
3. 金子氏は指導に疑問を感じたら、それについて訴訟を起こす(おそらく、日本でこういう行政訴訟を起こすのは困難だと思いますが)



そもそも、こういう重要な事案を扱う問題について、一裁判官に判断を任すのはかわいそうすぎます(言い方が悪いですが)。先日も、住基ネットについて判決をくだした裁判官が自殺してしまいました。

裁判官は裁判官で、司法のロジックの中で生きているので、いろんな意見や立場を調整したような判決にせざるを得ない。その結果、判決が日本の社会や産業に大きな影響を与えるのだとしたら、それは司法で取り扱うには重圧が過ぎるのではないでしょうか。
そのような社会に大きな影響のあるような法律上の問題は、きちんと立法で対応すべきではないかと、選挙などで国民の民意を形成しつつ取り組んでいくべき問題ではないかと思います。

実際、他の分野でも、車に対する交通法規にしろ、原子力にしろ、公害問題関連法律にしろ、新しい技術革新に対して新しい法律を立てて対応してきていると思います。
今回の件も、もしまともにやるのであれば、Winnyだけではなくデジタル時代の著作権について、時間はかかるかもしれませんが広く民意を形成し立法していくべきでしょう。
司法での対応としては、技術一般ではなく個別ケースに対して、今回のような判決を出すのが精一杯な気がします。


最後に、現時点のリンク集をまとめます。

まずはCNETの一報
CNET:Winny開発者に有罪判決--150万円の罰金命令

@ITの報道(今回の判決を受けての今後のソフトウェア開発への提言も含まれています)
@IT:ソフト開発への今後の影響を分析 「Winny裁判」で有罪判決、自由なソフト開発はもうできない?

判決要旨(判決文はまだ公開されていないようです)
asahi.com:「ウィニー」裁判、判決要旨

今回の一連の報道についてのリンク集
星を見る人:Winny開発者に著作権侵害ほう助の有罪判決、金子勇被告は控訴

金子氏弁護人のサイト
Attorney-at-law アターニーアットロー~博士と私
壇弁護士の事務室:判決

経済学的見地からの今回の判決の影響
池田信夫blog:Winny事件の社会的コスト

Winnyのセキュリティの観点から(判決前日に書かれた記事です)
高木浩光@自宅の日記:■Winnyの問題で作者を罪に問おうとしたことが社会に残した禍根

Slashdotでの反応
Slashdot: Winny開発者に罰金150万円の有罪判決

一ソフトウェア開発者の立場の意見
フニクラを見上げて:Winny判決

栗原潔のテクノロジー時評Ver2:【感想】Winny判決について

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