2006年12月10日日曜日

2つの著作権法改正の動き(文部科学省と知的財産戦略本部)

前に少し触れただけの、「著作権法違反の厳罰化」についてもう少し(「著作権は主張すべき、でもどうやって?+著作権法厳罰化の動き」参照)。

最近、著作権法関連で2つの動きがありました。

1. 文化庁が今国会に提出した著作権改正法案
2. 知的財産戦略本部による2008年国会提出を目指す著作権法改正の動き


1. 今国会の著作権改正法案

今国会(2006年12月)に提出されている著作権改正法案は、いくつかの比較的小粒の修正がなされたものです。そのためかあまり話題になることなく、文部科学委員会の約2時間の審議で可決され、その後衆議院本会議でも可決されています。

主な修正内容は、

* IPマルチキャスト放送(事業者)に対して、著作権法上も放送事業者と同じ権利を与える
* 視覚障害者向け録音図書のインターネット送信に関する著作権の制限
* 機器修理時等の著作物バックアップに関する著作権の制限
* 著作権侵害に対する刑事罰の強化

などです(他にもあります)。

IPマルチキャスト放送の著作権については、地上波デジタル化にともない電波の届かない地域に対してIPマルチキャスト放送での代替が検討されていることに対応するものです。
ちなみに、GyaOなどはIPマルチキャスト放送事業者ではなくあくまで通信事業者とみなされており、とくに著作隣接権について放送局のような特権は認められていません。
ただし、次の記事によると、この著作権改正法案では、地域を限定すればこのような業者でも著作隣接権の特権を得られるように解釈できるそうです。

文化庁の「大英断」・著作権改正法案に潜む見過ごせない欠陥

改正著作権法が衆院で可決--IP放送にも放送事業者としての特権付与へ

法案は、
第165回国会における文部科学省提出法律案:著作権法の一部を改正する法律案



2. 知的財産戦略本部による著作権法改正の動き

2ch等Web上で少々波風立ったのがこちらの法案です。11月下旬に報道されました。

asahi.com:ダウンロード、海賊版は禁止 政府、著作権法改正を検討

おそらく、asahi.comが、

音楽や映像を違法コピーした「海賊版」をインターネット上からダウンロードすることを全面的に禁止する著作権法改正に着手する。

と表現してしまったために、「ダウンロードしただけでタイホかっ!?」、「リンク先に違法コピーを仕込んで逮捕に誘導するダウンロード詐欺が横行する」、「キャッシュの仕組みなどをわかってないのか、もう少し勉強しろ!」などの書き込みがあったようです。

そのあたりのリンク集としては、
ぬるいゲーム時事ブログ:著作権法改正でダウンロードしたりYouTube見るだけで逮捕!?
にまとまっています。

実際には、どのような行為が違法なダウンロード行為なのかはこれから詰めていくのでしょう。

文部科学省の文化審議会では、すでにこうした議論が始められていて、デジタルデータの一時複製に関して、次のような場合には著作権を発生させるべきではないとしています。

1. 著作物の使用又は利用に係る技術的過程において生じる
2. 付随的又は不可避的(著作物の本来の使用・利用に伴うもので,行為主体の意思に基づかない)
3. 合理的な時間の範囲内

文化審議会著作権分科会報告書より)
ただし、結論は先送りされています。

また、それよりも、「知的財産戦略本部」は文部科学省とは独立した組織であり、文部科学省のこうした考え方がどこまで採用されるかは不明だということの方が問題ですが。


コンテンツ産業の発展のためには、不法なダウンロードを取り締まることも大事ですが、それよりも、新しい創造をした人に対していかに権利と名誉を守るか、そしていかに経済的対価を得られるようにするか、を考えることの方が重要でしょう。
それと同時に、いかにコンテンツを幅広く流通させるかも重要となります。

具体策として個人的に思いつくのは、

1. ゆるいDRMで保護しながら1つ100円程度の低価格でのコンテンツ流通
2. コンテンツは無料とし広告モデルを採用、この場合、いかに広告を見せるかの仕組みが重要
3. DRMで保護しないなら、ダウンロード負担金のような半分税金をとって著作者に配布
4. 寄付金(donation)方式や投票方式にするにはうまい仕組みが必要、かつこの場合もDRMは必須だろう

などです。

いずれにせよ、デジタルデータという特性を考えると、コンテンツそのもので儲けるというよりもその副産物で儲けるという、ITでのオープンソースのようなビジネスモデルになるのかもしれません。その場合、小規模/無名なコンテンツ製作者への経済的対価が極端に小さくなってしまう可能性もあります。それにともない、現在のコンテンツ制作のあり方が根底から変わってしまう可能性も否定できません。すなわち、大手出版社や広告代理店に働きながら趣味でコンテンツ制作するか(ITでいう多くのオープンソース・プログラマー方式)、もしくは資金を集めて大きな会社で運用するか(ITでいうRedhatやIBM、 Oracleなどの方式)。
はたして、それが正しいコンテンツ制作のあり方なのか、というところも含めて議論が必要でしょう。

今まさに、コンテンツを保護しつつ広く流通させるという二律背反をいかに実現するか、という点について、法制上技術上の革新と調整が求められているわけです。
知的財産戦略本部では、ダウンロードがどうとか、どういうダウンロードが違法なのかなどといった各論に陥ることなく議論が進んで欲しいものです。


ちなみに、最近のこうした著作権法がらみの改正のきな臭さについては次のブログが参考になります。
とくに、著作権法が、著作物の保護と効果的な利用という目的から逸脱し、共謀罪も含めたネット監視社会に利用されてしまうのではないか?という懸念が表明されています。

保坂展人のどこどこ日記:著作権法改正、厳罰化とネット規制を考える
保坂展人のどこどこ日記:著作権法違反の厳罰化とネット監視社会への危惧

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