2006年9月13日水曜日

著作権と経済的インセンティブ

インターネット時代の創作について考えるとき、創作のための社会的インフラとして著作権と特許と独占禁止法について考えることは重要です。

引き続き著作権について整理。

著作権のもうひとつの大きな神話として、「著作物はお金を払わないと二次利用してはダメ」というものがあります。

これはまったく正しくないです。

著作権にはなんの経済的権利も含まれていませんし、著作権法にも経済的な規定はありません。
著作権法的には、著作者の承認さえ得られれば二次的利用は可能となっています。

現時点では、というか、少し前までは、著作物の流通について出版社やレコード会社など一部の組織が独占できたために、それをうまく利用して著作者へ金銭的還元を実現し創作行為のインセンティブを高めていた、というのが事実です。

さらには、本来、権利や法律というものは人間活動の"公"の部分にのみ適用され私的領域については範囲外となっているはずで、著作権法にも私的利用は認められているはずなのですが、著作物の配布のみならず複製についても経済的利益を確保するために、「私的補償金制度」というものが作られてJASRACにより管理され、著作者へ金銭的に還元されています。これは、複製先となるメディア(テープやCD-R)の単価にあらかじめ補償金を上乗せしておきその金額を著作者へ還元するというものです。

したがって、インターネット時代の創作について考えるときには、著作権という創作者の権利と、創作活動に対する経済的インセンティブについては分けて考える必要があります。

創作者の権利としては、簡単に複製され流通することは自分の作品を広めたり名前を売ったりするには非常に良いことなのですが、自分の名前を付さずに複製されたりする盗作のリスクが増大したり、自分の創作物を自分でコントロールできないという問題があります。
また、経済的インセンティブについては、流通経路が無数となって課金の仕組みを作ることが困難となり、さらには簡単に複製されることによっても課金の機会を奪われてしまいます。

このように、創作物の流通(配布)と複製に関して、どのように創作者(著作者)の権利を守り、かつ経済的インセンティブを維持していくか、というのが重要です。

ところで、ITの世界では、GPLにしろクリエイティブ・コモンズにしろ、著作権については権利を主張しています。ただし、創作物の円滑な流通を促すため、複製権について特殊な規定を設けてはいます。
実際、従来の著作権の考え方では、複数の著作者の承認を得ることが非常にたいへんでめんどうな作業でした。マスメディアについては大きな労力をかけてこの部分をカバーしています。
ITのオープンソースの世界では、この複雑なプロセスを取っ払って円滑な流通を実現したのです。ただし、著作者の権利を放棄したわけではありません。

そして、最近のITの動向としては、プログラムという創作物(著作物)自体については金銭的見返りを得ず、そのプログラムを利用するサービスに対して課金したり、プログラムを利用するときにパーソナライズされた効果的な広告を出すことで金銭的還元を得たりすることが流行っています。

つまり、ITのプログラムの世界では、上の創作物の流通(配布)と複製についてある一定の解を出しつつある、と言えるかもしれません。
流通と複製については著作者の権利をしっかりと主張する代わりに、著作者への許諾などのめんどうな作業は不要としています。これにより、著作者の権利を守り名前を広める(名誉)というインセンティブを維持します。
経済的インセンティブについては、従来の流通と複製の部分ではいっさい諦め(流通・複製は権利の保護と名誉的インセンティブ)、その創作物に関わる別の部分(サービスや広告)で得ようとします。

ITの世界で実現しつつある新しい著作権とその経済的インセンティブの仕組みが成立しうるのかどうかが今試されていると言えるでしょう。

この仕組みは、ある意味、ものを作って対価を得る、あるいは、流通(貿易)を一手に引き受けて対価を得る、という人間社会の古くからの経済を変えるものとなるかもしれません。
実際、現在上のような新しい仕組みで成功しているIT企業の多くは、経済的インセンティブに株のような金融商品もうまく組み込んでいるように見えます(おそらく広告料だけではまだまだやっていけてないでしょう)。

著作権法や各種課金制度により保護されていた従来の創作者や創作物についてもこのモデルがうまくいくのかどうか。
それはもう少し時間をおいてみないとわからないのかもしれません。他方で、ドッグイヤーの世界では時間は矢のように過ぎていきます。遅れをとることが経済的デメリットとなりうる世界です。
そこのバランスのとり方が難しいところです。

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