最近、このブログを書くのに睡眠時間が削られている気がします。そこまでして書く意味があるのか。。。
さて、そんな弱気な気持ちからではないですが。
95年前に漱石が憂いた「技術がもたらす神経衰弱」
という記事がありました。夏目漱石の『私の個人主義』を引いて、コンピュータ業界について述べられています。
『私の個人主義』はまだ読んだことがないですが、この記事を読んでぜひ読もうと思いました。
若いときは古いものに触れることの価値が今ひとつ分からずあまり触れないものですが、さすがにこの歳になってくると温故知新が身にしみます。
この本は、夏目漱石の講演を集めたものであり、その中で漱石は、開化とは近代化のことであり、人間活力の発現の経路であると定義し、活力の発現には活力節約と活力消耗の二通りあるとしているそうです。
活力節約は、技術力(当時は汽車や電話)による労働時間やめんどうなことの節約による生活レベルの向上のことです。
活力消耗とは、文学や哲学なども含めた"道楽"のことで、それによる生活レベルの向上を指します。
しかし、こうした開化は、西洋においては内発的なものだが、日本では外発的なものであり、「皮相上滑りの開化」である、とします。そして、それはどうしようもない、と言います。
「どうも日本人は気の毒と言わんか憐れと言わんか、誠に言語道断の窮状に陥ったものであります」。これが漱石の結論であり、「どうすることも出来ない」と言う。さすがにあんまりだと思ったのか、「神経衰弱に罹らない程度において、内発的に変化して行くが好かろうというような体裁の好いことを言うより外に仕方がない」と言い直して、『現代日本の開化』の講演を締めくくっている。
西洋の文化をいかに取り入れていくか(そしていかないのか)、というのは、おそらく日本だけでなく非西洋諸国にとって大きく普遍的な問題でしょう。
2000年を越えた日本においてもいまだにこの問題が根深く横たわっています。それは、社会にも思想にも技術にもあらゆるところで目にすることができます。夏目漱石の指摘はまったく色あせていません。
そして、この記事では、開化の活力節約を担う技術の専門家について述べられた講演へと話が進んでいきます。
夏目漱石は、専門化が高度に進むと隣の専門が見えなくなってしまうと指摘します。
「現今のように各自の職業が細く深くなって知識や興味の面積が日に日に狭められて行くならば、吾人は表面上社会的共同生活を営んでいるとは申しながら、その実銘々孤立して山の中に立て籠もっていると一般で、隣り合せに居を卜(ぼく)していながら心は天涯に懸け離れて暮らしているとでも評するより外に仕方がない有様に陥って来ます。これでは相互を了解する知識も同情も起こりようがなく、せっかくかたまって生きていても内部の生活はむしろバラバラで何の連鎖もない。(中略)根ッから面白くないでしょう」
それを解決するためには、乏しい余裕を割いて自分の専門以外についても時間を割いていかないといけない、とします。
「個々介立の弊が相互の知識の欠乏と同情の稀薄から起ったとすれば、我々は自分の家業商売に逐われて日もまた足らぬ時間しか有たない身分であるにもかかわらず、その乏しい余裕を割いて一般の人を広く了解しまたこれに同情し得る程度に互の温味(あたたかみ)を醸(かも)す法を講じなければならない」
ここまで読んで、次の記事を思い出しました。
アングラ研究が消えたIT部門の行く末
この記事では、昔は、ビジネスにならないが個人的に興味をもったことがらについて、個人が勝手に深く探求し、それが長期的には次のビジネスにつながっていくということがあった。ところが、最近は、内部監査やら効率化やらでそういう"アングラ研究"ができなくなってきているのではないか?という指摘です。
やはり、人生にもビジネスにも、関係のないことに手を伸ばす"余裕"、"懐の深さ"のようなものは重要です。
これが無くなると、ジリ貧になるのが目に見えています。
夏目漱石が、専門化が進んで外が見えなくなると言ったこととそのままつながるわけではないですが、効率化などによって余裕がなくなり今のビジネスと関係のないことに目が届かなくなるというのは、新しい関連を生み出さなくなるし、そもそも面白くない、と漱石にならって言うことができます。
夏目漱石はそこで、道楽を進めます。道楽(酒や女だそうですが)を通じて、垣根を飛び越えた交流を持つことがそうした孤立化から逃れる方策だ、と。そして、我田引水ではないがそれには小説を読むことがもっとも効果的だ、と言います。
ITのビジネスにおいても(他のビジネスでもそうだと思いますが)、懐の深さや余裕をなくさないように、なんとか余裕を割いて、"道楽"を通じて外の世界とつながっていきたいものです。
2006年10月5日木曜日
人生にもビジネスにも"余裕"と"懐の深さ"を
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