2006年8月24日木曜日

ものごとをドライブする力

『』
ジョン サルストン

以前読んだ本から。
ヒトゲノム解読プロジェクトについての本です。

著者であるジョン・サルストンさんは、ヒトゲノムの全塩基配列解読のための国際チームのリーダーとして活躍した1人で、その立場から、同プロジェクトを振り返って書いたものがこの本です。http://draft.blogger.com/img/gl.link.gif

オープンなマインドを持ったヒッピー世代でもある一線虫学者が、次第に遺伝学の学会の中に巻き込まれ、国際間の協調に尽力し、さらには特許によって情報を独占しようとする民間企業(や国)と戦いながら、ヒトゲノムの全塩基配列解読という当時としては「無謀」ともとれるプロジェクトをドライブしていった様が描かれています。

ヒトゲノム情報のような基礎研究成果を企業に独占されてはならない、全世界にオープンなデータベースを作って科学の進歩に役立てなくてはならない、という強い信念には尊敬します。その社会的正義を貫く姿勢は見事です。
そしてそれをうまくドライブしていく姿も。

最大の難関は、予算集めだったようです。とてつもない額の研究費がつぎ込まれています。逆に、サルストンさんらの努力で、いろんな団体から資金が集まりました。はたして実現できるのかどうか、また実現したとして何か(すぐに)役に立つのかどうかわからないようなプロジェクトに対してお金をつけようというのですから、その予算取りの苦労は大変なものだったでしょう。その過程も非常に興味深いです。線虫での実績と、プロトタイプのようなものでの実績を重ねながら、予算を確保していったようです。何よりほとんど「壮大な夢」な目標が資金援助者に対しては有効だったとも考えられます。大きな夢でありながら、それを実現できそうな実績の積み重ね、この2つが重要なポイントと感じました。

2000年6月にはクリントン大統領と同じ日に民間ベンチャー企業セレラ・ジェノミクス社もヒトゲノムの全遺伝情報解読終了を宣言しました。サルストンさんにとっては、こうした企業との戦いも重要だったようです。企業活動としては、遺伝情報をライセンス販売するなどして利益を上げ、研究費を回収しさらには利益を上げることになると思いますが、サルストンさんとしては、このような人類みんなに役の立つような基礎情報は、望む人すべてに解放すべきだという大きな思いがあったようです。そうした、ビジネスに巻き込まれながらも(サルストンさんチームも予算を必要としています)、オープンさを守り抜く様もまた非常に興味深いです。

アイディアを言うだけは難しくないですが、それを信念を持ってやり遂げる、しかも不可能に近いようなアイディアを実現してしまう、という痛快な物語を味わいたい人はぜひどうぞ。なかなか読みやすくもあります。

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