2007年10月22日月曜日

検察の実情、バブルのあやうさ:『反転』を読む

反転 —闇社会の守護神と呼ばれて
田中森一
幻冬舎

イトマン事件で許永中らとともに捕まって公判中の弁護士の自伝です。
前半は、自身検察官だった時代の検察という仕事の実情の吐露、後半は、弁護士になってからのバブル紳士との付き合いの告白、というものになっています。

筆者の人生が日本の戦後経済発展の合わせ鏡となっている、というような書評を読んで、おもしろそうだと思い読んでみました。
その点ではハズレでしたが、読み物としてはおもしろく読みやすく、検察の実情を知れたという点では興味深かったです。
個人的に、陰謀ものとか好きでないですがそれでも楽しめました。陰謀ものとか好きな方はもっと楽しめるのではないでしょうか。

■検察の実情
現場の検察官は、いかに被疑者をクロにするか、いかにクロの数の実績をあげるか、に最大限注力します。したがって、被疑者に対する態度は犯人扱いとなりますし、数をあげやすい選挙違反事件などが狙われやすくなります。
検察官の職責としてはそのとおりなのでしょうが、社会的正義としてどうなのかと考えさせられるところです。

また、検察の組織は法務省配下におかれており、けっきょくは官僚の出先機関となっています。したがって、政治関係の事件は検察では扱いづらいものとなり、多くの疑惑が政治家の圧力により握りつぶされているようです。検察にくるキャリア組などは将来のキャリアをつぶしたくないために、政治的に易い方向へ流れやすいようです。

筆者などの叩き上げの検察官で正義感の強い人は、政治関連の疑惑にも果敢に挑みますが、けっきょくは握りつぶされることも多く、そういうこともあって筆者は検察を辞めることにしたようです。


■弁護士の実情
特捜の検察官を辞めた筆者は弁護士となります。
時はバブルが始まろうとしている頃で、元特捜エース検察官ということであっという間に仕事が舞い込んできたようです。
とくに、仕手などでもうけた怪しいバブル紳士のような人や、山口組をはじめとするヤクザなどを顧客とし、もっぱら法廷には出ず示談で問題解決していくようなあぶなっかしい弁護士業を営み莫大に儲けていったようです。ウン千万とかが1日に平気で飛んでいくような世界が描かれています。政治家なども実名で多数登場します。

そして、現在公判中の事件の真相についても語られていきますが、印象として自己弁護的なところも無いとは言えず、いずれにせよ個人的にはその真相はどうでもよいというかあまり関心ありません。


それにしても、検察官という社会の悪者を法廷の場へと連れ出す仕事の大変さ、重要さがわかるとともに、それがいとも簡単に政治家の圧力によりゆがめられていってしまうということには非常に残念な思いにさせられます。わかっちゃいたけど、社会ってやっぱりそんなものなのかと。

そういう意味でも、事実上の一党独裁であったり、官僚という固定的閉鎖的組織が権力をもったりすることは、社会としてよくないことだと実感させられます。
アメリカのように二大政党制で、かつ政党がかわれば官僚組織も取っ替えになるような、そういう仕組みの方が健全に運営できそうに思えます。
もちろん、アメリカの政治にも不正はあると思いますし、現状どれくらい腐敗しているのかとかほとんど知りませんが。

また、バブル的なお金のあやうさ、危なさも認識させられます。そういうお金には必ずウラ社会が接近してきますし、そうすると生死をかけざるをえないような状況にもなりえます。使いきれないようなお金のために自分の生死もかけるというのは自分の感覚ではよく理解できませんが、お金や権力という道具を価値観の柱(人生の目的)にはしない方がよいとあらためて思えてきます。

0 コメント:

 
Clicky Web Analytics